外部ブログ「タンボとハタケと」(tahata氏)

タンボとハタケと

 私のブログを取り上げてくださり、なおかつコメントも下さった、ありがたいお方である。

安部司氏の講演

2008年2月15日,私の住む地域で安部司氏の講演があり,参加した。

簡単な感想は,
 (1) さすが元トップセールスマンだけあって,話術がすばらしい。
 (2) 食品添加物で調合を実演されながらの講演だったので,「理科の実験」として楽しかった。
以上の2点。

私にとって得るものはほとんどなく,私の予想を超えない内容だった。
食品添加物を批判するのではなく日本の食の現状を考えて欲しいのだ,という安部氏の言葉があったが,その割には,食品添加物のリスクではなくハザードを多く挙げて,最後のほうで有機JAS等の有用性を訴える,そんな展開だった。
安部氏の著書「食品の裏側」のプロフィールでは,安部氏は現在,天然塩のセールスを行っているそうだ。
また講演会資料によると,「有機農業JAS判定員」もしているそうだ。
結局,2時間かけて,暗に自身の営業・PRをしたかったのではないだろうか,そう感じた。

安部氏は講演会で,明らかに事実と異なることを,少なくとも一つ発言していた。
有機JASは無農薬・無化学肥料栽培だと発言していたが,これは事実ではありません。
http://tahata.at.webry.info/200803/article_16.html
結果として無農薬や無化学肥料で栽培された有機JAS農産物があるかもしれないが,それは有機JASの制度として担保していない。
そのため,「有機JAS=無農薬・無化学肥料栽培」といった説明は事実と異なる。
有機JAS制度では,特定の農薬・無機質肥料の使用を認めているのだから。
安部氏は有機農業JAS判定員をしているのだから,この事実を知らないわけはないだろう。

食品添加物の「発がん性」を最初から最後まで強調していたが,「ハザード」だけでいえば,講演会前後に参加者の一部が喫煙していたタバコや,食品由来の発がん性物質には一切触れなかった。
「発がん性」で取り上げるなら,あの壇上には,食品添加物と一緒に,タバコやコーヒー,キャベツ,山菜などが並べられるべきだった。
使用上限が定められているものは,危ないと発言していた。
1年前には水中毒でなくなった方が実在するし,食塩のLD50も大体食卓塩1ビンだ。
使用上限が決められてないものでも,摂取量を考慮しないと人体に危険なものはいくらでもある。
定性的な問題と定量的な問題,ハザードとリスク,をそれぞれきちんと区別して議論しないと,とんでもない話になる。
安部氏の話では,使用上限が定められていない食品添加物もあるそうだ。
でもそれらも,講演会ではなんとなく悪者扱いだったような感じだった。

安部氏の話術は人を惹きつける魅力はあるが,その内容を無条件で受け入れるのは私にはできない。

 私もいずれ書くが、「予想を超えない内容」だった。


食品添加物批判について

FoodScience2009年2月25日掲載の長村洋一氏の連載「多幸之介が斬る食の問題」では,「再燃するか、食品添加物バッシング?」と題して,以前本blogでも取り上げた,安部司氏の新著書を批判的に取り上げていた。
長村氏は以前から安部氏の著書等を批判されており,私も長村氏の意見に賛同する。

安部氏の主張に対する反論・批判は,ネット上でもあまり見られない。しかし,最後に挙げた参考リンク先を見ていただくと分かるように,安部氏の主張には,誤りが複数存在する。
安部氏の主張を受け入れるかどうかは各人の自由だが,少なくとも,その主張が的確かどうか調べる必要はある。
これは,安部氏の主張に限ったことではなく,本blogの内容も含めて,全ての情報に対して当てはまる事である。

さて,安部氏の主張の誤りについては詳細は参照リンク先を見て欲しいが,ここで1点だけ触れておく。
安部氏の説明するADI(一日摂取許容量)は,誤りである。
ADIは,農林水産省農薬コーナーでも解説されているように,

一生涯に渡って仮に毎日摂取し続けたとしても、危害を及ぼさないと見なせる体重1kg当たりの許容1日摂取量

であって,
安部氏の主張する,

そもそも,添加物の毒性や発ガン性のテストは,ネズミなどの動物を使って繰り返し行われます。添加物として使っていいかどうかや使用量の基準が,そのネズミでの実験結果にもとづき決められているのです。
「ネズミに,Aという添加物を100グラム使ったら死んでしまった。じゃあ,人間に使う場合は100分の1として,1グラムまでにしておこう」
大雑把にいえば,そのように決めているのです。
(「食品の裏側」60ページ)

「Aという添加物を100グラム使ったら死んでしまった」量ではなく,「一生涯に渡って仮に毎日摂取し続けたとしても、危害を及ぼさないと見なせる」であり,「大雑把」どころか,明らかに誤りである。

なお,新潟市医師会では,安部氏の著書「食品の裏側」を好意的に紹介しており,その中では,

現在の食品製造加工業において食品添加物なくしては、成り立たない。食品を長持ちさせる、色形を美しくしあげる、品質を向上させる、味を良くする、コストを下げるなど、すべて食品添加物を使えば簡単なことだそうだ。この「光」の部分に対して、「影」の部分が当然ある。添加物の人体への害悪・毒性がそうであるがそれ以上の問題として、添加物が食卓を崩壊させることである。

といった記載が見られ,唖然としてしまう。

また,次のようにその書評を結んでいる。

添加物を使った加工食品は、「食とはこんなに簡単に手に入るものだ」と思わせてしまう怖さがあることを知ってもらいたい。一読をお勧めする。

医師の社会的地位を考えた場合,このような内容を掲載することは如何なものか。
ましてや,ある医師個人のblogに掲載しているのではなく医師団体の公式ウェブサイトに掲載している点,新潟市医師会はその内容に重大な責任を負っていることを自覚して欲しい。