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ある意味、『買ってはいけない』より悪質? 安部司『食品の裏側』

安部司『食品の裏側』東洋経済新報社、2005.11
 書店で大きく取り上げられているのを見て購入。昨年秋の刊行だが、長期にわたって売れているようだ。かつて食品添加物の商社に勤めていたという著者による、添加物の使用の実態の内部告発的な本。
 知っている話もあったが、たらこやコーヒーフレッシュのことなど初めて聞く話もあり、それなりに役に立った。
 ただ、著者のスタンスには疑問も覚える。
 ひとつは、これまでさんざん添加物の使用を推奨しておきながら、転向して反添加物の伝道師?のような立場になっているという点。講演をしているというが、それって当然お金取るんですよね。添加物で稼いで、反添加物でまた儲けると。結構なことで。クズ肉の再利用的な食品であるミートボールを自分の子供が食べようとするのを見て、添加物の危険性に目覚めたとか言うんだけど、うさんくさい。動機はもっと別の所にあるのでは。
 ついでにミートボールについて言うと、たしかにクズ肉の再利用なのかもしれないが、それで腹をこわすわけでなし、体に悪いと立証されているわけでもなし、昨今はやりの「リサイクル」という点から言えば、むしろいいことなのではないでしょうか。本書を読んでミートボールを食べる気がしなくなったとか言っている人は、ナーバスに過ぎるのではないか。
 ふたつめは、かつてベストセラーになった『買ってはいけない』のような、とにかく添加物を危険視する見方には与しない、添加物それ自体が必ずしも悪なのではないと主張しているのだが、では結局どうすればいいのかが、全く読み取れない点。添加物の名前を覚える必要はない、台所にないものは避けるべきだと言うのだが、保存量や香料や酸味料だのが台所にあるわけもなし、そんなことを言っていたら加工食品は一切食べられなくなってしまうのでは。それならば、どの商品がどういけないのかを具体的に説明しようとした『買ってはいけない』の方がまだしも誠実な態度だと言える(もっとも、その手法に問題があり、また内容的にも事実誤認が多々あったわけだが)。そのくせ、巻末には添加物の危険度別分類表が付いている。全くもって矛盾している。ミートボールの話などで読者の気持ち悪さ、不快感に訴える手法で不安をあおるが、添加物の具体的な危険性には明らかにされず(添加物が複合することによる影響は予測できないとか、舌が壊れるとか、やたらと不安はあおるものの)、また一方で添加物は悪くないともいう(長年世話になった添加物業界への義理立て?)。ある意味、『買ってはいけない』より悪質とさえ思える。
 複合による効果が予測できないというのは、何も添加物に限った話ではない。食物自体についてもそうだろう。添加物の中でも、自然に存在しないものは避けるべきというが、これも理解不能。自然のものでも毒は毒だし、人工のものだからといって悪影響があるとは限らないだろう。加工食品がどのように作られているのかについて、知っておいて損はないと思うが、それと体への危険性は別問題だと思う。