【特別編】“色盲治療”和同ドクターズグループ・山田武敏

安部司から離れて斜め上に迷走中の本ブログだが(別ブログは諸事情から公開停止)、ニセ科学関連で、個人的によく知っているものを調べていたのでまとめておきたい。

史上数多現れた「色盲療法」のなかでもおそらく一番有名なものである。

和同ドクターズグループ(通称・和同会)とは、目白・新大阪・博多の3箇所にクリニックを開いていて、1980年ごろから2001年に目白が閉鎖されるまで20年以上、色盲色弱が治るという「治療」を行っていた。率いていたのは山田武敏会長。

この「治療法」を「JPJCシステム(ジャスト・ポイント・ジャスト・チャンネル)」と称した。簡単に言えば、頭に電極をつけて、微弱パルスを与えるというもので、石原式検査表のパネルが見えるようになるというもの。

mixiレビューに、懐疑論者コミュでおなじみだったと学会会員、故・志水一夫氏が書いたものがある。

やっぱり治る色盲色弱―世界が認める治療効果
(和書)

1984
ベストセラーズ
山田 紀子, 和同ドクターズグループ

【 ずっと気になっている本 】
 
朝日新聞』 がまったく取材せずに医師のコメントだけで 「まやかし」 だと報じた時に批判的なコメントをしていた、獨協大学の関亮教授が推薦している本。
 実際に訪れてみたら治っている (色が見えるようになっている。遺伝要素まで治ったわけではないそうです) 人がいたので驚いたらしいです。
文藝春秋』 や 英語版 『PHP』、さらには 『噂の真相』 までも肯定的に報じ、毎日新聞編集委員による肯定的なルポ (土屋省三 『私は見た色盲が治る事実を!!』 高木書房、1981) も出ていたのですが、クリニックは2001年に閉鎖になってしまいました……。

やり方としては、笑ってしまうくらい典型的過ぎる、教科書どおりのニセ科学そのものである。「治療法」は査読論文どころか学会発表すらしていない。うん万人も治ったという証言がある(=体験談)。これだけ証言があるのに眼科医会の石頭どもと、結託した朝日新聞は潰しにかかっている。ニセ科学では頻出する構図といえる。

『やっぱり治る色盲色弱』の著者・山田紀子とは「目白メディカルクリニック」の当時の院長で皮膚科医であり、山田武敏会長の妻。

この本だが、図書館や学校関係にばら撒いたので図書館では容易に見つかると思われる。興味のある方は読まれたし。

いったいいつの時代に書かれた本かと思うほど、山田武敏会長への個人崇拝に終始しているのだ。変な点がある。普通、医者の本だと出身大学や経歴は明らかにされるものだが、山田会長の経歴は不明だ。1928年新潟県小千谷市生まれ、旧制長岡中学卒(「和同会」の名前は長岡中学の生徒会から借用したもので、論語の「君子は和して同ぜず。小人は同じて和せず」に由来)というくらい。海外で活動しているときに難病のベーチェット病に罹患し、その治療法を考えているうちにJPJCシステムを編み出したとしている。実は麻布獣医科大学(現・麻布大学)卒でそもそも医師ではない。

システムとしては驚くほど巧妙に練りこまれたものといえる。患者(和同会は「クライアント」と呼んでいた)から治らないと訴えられることもなく、法令違反に問われることもなく、朝日新聞以外のマスコミから叩かれることもなかった。おそらくニセ医療史上でも稀に見る「成功例」だろう。由井寅子の100万円ホメオパス養成など目じゃない。

治療費は前納制だった。小中学生10万、高校・大学生12万、一般14万。治らないと思っても、ほぼ泣き寝入り。言うまでもなくお金は持っているほうが強い。しかし和同会は治らなかったという人はいないから完治しているとしていた。

男性の20人にひとりといわれる色覚異常、あまり省みられることもなく、かなり不当な差別を受けてきた。そういう人をターゲットにして、10数万円というのも庶民にも出せない額ではない。新聞などに書籍の広告を打って、「これだけの大学や企業には入れない」「これからの時代、コンピュータ化・オートメ化すなわちカラー化だから、色盲色弱を治さないと取り残される」と不安を煽る。

朝日新聞だが、1980年の暮れに「色盲“まやかし”療法」という記事を載せた。眼科医会が治療自粛の申し入れをするという内容(和同会側は、その申し入れなるものはついぞなかったとしている)。その記事を書いた内山幸男記者による講演がある。下手なフィクションよりも面白い。

http://nodaiweb.university.jp/cms/letter-pdf/letter-38.pdf

 目白メディカルクリニックは、もともと皮膚科医院だったが、評判が悪く、患者も少なかった。その年の春頃までは、エステや鍼灸にまで手を出していた。紀子が武敏と結婚したのも、エステの患者の顔を傷つけてトラブルになり、ヤクザに絡まれていたところを武敏が話をつけたのがきっかけだったと後で知りました。

 武敏は麻布獣医科大卒で、数回の離婚歴もある詐欺師。その中には著名な芸術家で大金持ちの孫娘もいました。さて、武敏は紀子と結婚したのはいいが、医院は火の車。そこで、何かぼろもうけできることはないかと考えて、たどり着いたの良導絡もどきによる色覚治療。なぜ色覚治療なのか。ポイントは、色盲色弱の治療なら治らなくても文句は言ってこないだろうし、多少文句は言われても、絶対訴えられることは無いと読んでいたからです。現に、目白メディカルクリニックでは 10 万人近い人が「治療」を受け、直接の治療費の被害額だけでも百数十億円、宿泊、交通費なども入れれば、1000 億円近い損害があったと思います。でも、誰一人として訴訟を起こした人はいません。

 裁判になって、警視庁防犯部が内偵中だったことが分かった。しかし部長の異動で、「医療問題は難しいから」と捜査を打ち切られたという。担当刑事は本人が色弱で「こうしたインチキは許せない」といっていた。朝日新聞社でこの記事を扱った社会部デスクも色弱だった。警察も、朝日新聞社も当時は「色覚正常であること」が入社条件だった。ごまかして入社したのだと思う、もちろん、そうやって潜り込んだことが問題なのではなく、そのように個人的に解決してきたため、意味のない就職差別が長く続いてきたといえる。

志水氏は、和同会側の言い分を鵜呑みにして「『朝日新聞』 がまったく取材せずに医師のコメントだけで 『まやかし』だと報じた」といっているが。

システムが巧妙なのは、過去にもいかがわしい行為をしてきてその経験から練りあげたとも考えられる。悪徳商法ではよくあること。

紀子医師(=和同会)側は朝日新聞社と、記事を書いた内山記者を相手取って名誉毀損訴訟を起こした。一審は紀子医師側のほぼ全面勝訴といえるものだった。しかし控訴審で逆転、上告も棄却され敗訴が確定した。10年以上かかっている。

この敗訴が和同会にはターニングポイントになったと思われる。それまで書籍は基本的に紀子医師名義で出していたが、紀子医師は表から消えて(院長も辞めたと思われる。閉鎖時の目白の院長は某製薬会社の創業者一族だったと記憶)、武敏会長が表に出るようになった。スーパーシートとかイエローシートと称する有料席を乱発するようになった。洋楽が流れていたクリニックは山田会長の講演テープばかり洗脳のように延々流れるようになった。『頭がよくなる 偏差値が上がる』なる本を出して(この本のイラストを描いていたのが鉄道模型の世界では有名な漫画家・水野良太郎氏だった)、色盲治療以外の「頭がよくなる」治療や、ダウン症自閉症うつ病、果てはアトピー性皮膚炎など、ありとあらゆるものに効果があると言い出した。

また、パーマネント会員という制度があった。石原表が全て読めるようになったという人を対象に、TMC(東京医大検査表)やアノマロスコープでの検査も受けられるというものだった。会費は15万だったが支払い済みの治療費は免除されるので、10〜14万の治療費との差額で入会できるとしていた。しかし敗訴したころから、免除なし・一律10万とされた。

ちなみに「イエロー」だが、以前あったオフィシャルサイト(www.wado.co.jp)は黄色バックに黒の太ゴシック文字という、ウェブサイトとしては奇妙な色使いだった。実は和同会の書籍にはよく見られた。よほど「イエロー」が好きだったとみえる。

眼科医は、書籍を推薦したり裁判で証言するなど、和同会に権威付けをしていたのが関亮・獨協医科大学名誉教授。和同会も書籍の広告で関名誉教授推薦を常に謳っていた。

 判決でいう「一部でも治るという専門家」というのは独協医大の関亮教授だった。人はいいが脇の甘い学者で、通電(良導絡)により色覚異常が向上するという学会発表をした人。本人も当初私が会った頃は、「向上するという人はいるが、治るなどということはとんでもない」といっていた。しかし、5 年の間に接待攻めにでもあったのだろう。結局、裁判で原告側証人にたった時は、「これは素晴らしい治療だ」といった。じつはこの人は、シャープが「電気色神訓練器サンビスタ」というものを発売していたときの、支持者だった。 この「サンビスタ」という名は、いまはシャープの太陽光発電システムの名称として使われている。

シャープが「電気色神訓練器」で失敗した後、「真似した」松下電器が同種のものを売ろうとして失敗したという。和同会は一流電機メーカーのシャープ・松下にも出来なかったものに成功したと自賛していた。

一方反和同会の急先鋒だったとされるのが市川宏・名古屋大学名誉教授で、「日本色覚差別撤廃の会」で活動していた高柳泰世医師は市川名誉教授の教え子だという。

『良識ある眼科医はいないのか』という冊子があった。著者は息子が和同会のクライアントだったという主婦M氏で、新聞に盛んに投書を行っていた。それによると、眼科医のおそらく99パーセントはご存知ないが、残り1パーセントの方のみ詳しくご存知という「学者の意地の張り合い」、和同会の裁判などは、いわば関名誉教授と市川名誉教授の代理戦争だったという。この冊子の後半は、統一協会系新聞として知られる「世界日報」の連載「最新 朝日新聞事情」からの転載。和同会の書籍の一部は世界日報社が版元だった(和同会が統一協会と関係あるかどうかは知らない)。

和同会は、関名誉教授以外の眼科医からはほぼ白眼視されていて、眼科医会は総力で和同会を潰しにかかっているとしていたが、実際は高柳医師などもほぼ孤立無援だったという。眼科医でも色覚異常の専門家はごく一握りしかいないとされる(治らないものとされているものを積極的に研究しようともしないだろう)。今にして思えば、眼科医でも和同会を擁護したものも少なからずいた気がする。

今ネットで和同会や山田武敏会長に関して検索すれば、ほぼ詐欺だという評価で一定している。2ちゃんねるでは以下の内容が大量にコピー&ペーストされている。

山田武敏
色覚異常色盲色弱)は治ると言って、目白メディカルクリニック(和同ドクターズグループ)なる
医院もどきにて怪しげな治療を行い、高額な治療費を取り続ける。
色覚異常は治ること無く、治療費は返還されること無し。朝日新聞紙上にて取り上げられる。
朝日新聞を裁判に訴えるも、敗訴。
目白メディカルクリニックを閉鎖して逃亡する。
現在、脳力回復支援センターなる施設を高田馬場に開設。
長岡高校卒

一説には目白メディカルクリニック閉鎖後中国に拠点を移したとも言われていたが、名前を変えて活動していたらしい。

和同会は「JPJCシステム」以外にもさまざまなものに手を出している。皮膚科だからか、水虫・ヘルペスなど皮膚関係が多かった薬を売っていた。名前は「マーベラス」。山田会長が自身の体で人体実験をして安全だとしていた。山田会長の体では問題が出なくても、人によってアレルギーが出るということもあるだろうと思うが。

ciniiで「山田武敏」で検索すると、「発酵乳の抗アレルギー効果」なるものが出てくる。発酵乳に関しては「微生物含有製品の製造装置(実登3012756)」という実用新案登録があるほか、度々特許を出願しているのが分かる。実際クリニックで「製造装置」や種菌を売っていた。「パルス波通電システム(特開2001-129100)」はJPJCシステムそのものか?

「頭がよくなる」治療を受けてボケ防止になっていたといっていた人物に、三宅和助・元駐シンガポール大使がいた。

無用の用〜高井伸夫の交友万華鏡
高井伸夫の「交流懇話」〜第4回 6月17日(月)帯津良一先生を囲む会(2013年8月 2日)

 布施田様からは、かつて存在した色覚異常色盲)のためのクリニックに関するお話を頂きました。「もう30年以上前に子ども達の治療にあたり、その数20万人を下らない。そのクリニックには、治療後2,3か月の子どもたちが赤や青の色を使うようになって描いた絵が飾られていた。治療法の開発者である山田武敏氏によれば、“色覚治療だけでなく認知症への効果も認められ、当時68歳の元外交官も物忘れと視力の改善を告白している。論理的に説明することより、パルス(微弱電流)が脳を刺激することによって脳が活性化すると仮説を立てて挑戦している”。」のだそうです。

「当時68歳の元外交官」が三宅のこと。帯津良一といえば、ホメオパシーは医師のみで独占されるべきとしている(従って由井寅子の「日本ホメオパシー医学協会」や「日本ホメオパシー振興会」とは対立関係にある)、「日本ホメオパシー医学会」の会長じゃないか。

小沢一郎と親密だったとされ、娘は三宅雪子・元衆議院議員。晩年先物業者に騙されて家や財産を失ったとされるが。『やっぱり治る』に推薦を寄せ、山田会長の叔父(母の弟)だったというのが長谷川信・参議院議員。一審勝訴の頃に出たビラで色覚異常に関する超党派の議員懇談会なるものがあったというが、この懇談会には戸井田三郎・元厚生大臣江田五月・元参議院議長らが名を連ねていた。和同会は政治家にもコネを有していたのだろうか。内偵していた警察が捜査を打ち切ったというのも何やらきな臭い。

和同会の「色盲治療」はなくなったが、今も一部の鍼灸師が「色盲が治る」と称する施術を行っているらしい。和同会の最初の本『色盲色弱は治る』では良導絡を同じように取り上げていた。当時の良導絡団体の幹部が山田会長と親密だったとされる。『やっぱり治る』では和同会以外には治せないとしていた。

ただし、内山記者および「撤廃の会」にも苦言を呈しておく。

更に「被害を防ぐために未だ図書館にある詐欺の本を取り除かなくては」と言われました。

「図書館の自由に関する宣言」を読んでほしい。「詐欺の本」だろうが図書館で気軽に調べられるのが健全な社会というものだ。これでは「つくる会」関係者の本を破棄した司書と同じだ。ましてやジャーナリストの言葉としては到底許されるものではない。

「撤廃の会」も、よくある排他的な「市民団体」という印象を受けてしまう。この種の排他性が、運動に対する偏見を招く。

「“まやかし”療法」の記事が出た当時の背景として、富士見産婦人科事件があったが、この有名な事件、著名な医師がでっち上げだとしている。この事件のスクープをしたのも同じ朝日、「医療の荒廃を突く」報道キャンペーンがなされていたという。ただ「世論誘導」は朝日よりも和同会の方がずっと上手だった。